エンターテインメントを発信する場として
物理的な開催が難しく、中止となったイベントやコンサートの代わりに、アーティストが無観客でのライブ配信をYouTube で行うことが多くなりました。
音楽制作ユニットの M.S.S Project は、ライブコンサートが中止になり、初の無観客のライブ配信を YouTube で開催しました。ライブ配信中にはコメントを通してファンとの交流を深めたほか、Super Chat を通じて、約 1 億 2000 万円の支援を集めました。
落語家の春風亭一之輔さんは、寄席の休席を受け、「春風亭一之輔の 10 日連続落語生配信」を開催し、世界中の落語ファンに、笑いと楽しみを届けました。また、キャスト・スタッフが一度も会わないリモート環境で制作された、上田慎一郎監督の短編映画『カメラを止めるな!リモート大作戦!』は、100 万回以上も再生されています。
このように、制限がある状況下でも、クリエイターやアーティストによって新たなエンターテインメントの形が YouTube で発信され、ファンの方に楽しまれています。
外出自粛中のニーズに応えた動画
2020 年の初め、「自分の髪の切り方」を真剣に学ぼうとしていた人は、それほど多くなかったかもしれません。しかし 4 月には、世界中の人々がセルフカットのやり方に興味を持ち始めたことを YouTube の視聴トレンドが示しています。外出自粛の動きが大きくなった 2 月以降、日本では「セルフカット」動画の平均視聴回数が、それまでの期間より 130% 以上増加しました。
「人間の欲求」に関する研究を行っている文化人類学者の Susan Kresnicka は、 「The KR&I Human Needs Model」を開発し、「人間の欲求」は 3 要素から構成されている発表しています。まず、心と体の健康を維持したいという「セルフケア」、そして、人や社会とのつながりを保ちたいという「ソーシャルコネクション」、最後に、自分らしさを追求し表現したいという「アイデンティティ」です。そして、この 3 要素は相互に影響しあっているとしています。
たとえば、髪を切ることは「セルフケア」の一環ですが、自己表現としての「アイデンティティ」でもあります。2020 年の 3 月頃から世界中で流行したダルゴナコーヒーは、トレンドに参加する側面とともに、コーヒー好きの人にとっては心を落ち着かせるものだったかもしれません。
多く視聴された「自宅エクササイズ」関連動画
在宅勤務や休校によって運動する機会が減ってしまったことで、運動器具がなくても自宅でできる「自宅エクササイズ」動画の平均視聴回数が、日本では 3 月後半から 200% 以上増加しました。
Marina Takewakiさんは、現在 160万人以上のチャンネル登録者がいるクリエイターです。マンションなど騒音に気を遣う環境でも取り組みやすいダンスエクササイズを多く投稿し、人々の自粛生活に運動の楽しさを届けました。
サッカーの長友佑都選手も、自宅でご家族と一緒にオリジナルのダンストレーニングに挑戦する姿を動画で投稿しています。
クリエイター、視聴者、そしてプロアスリートでも、「同じ時期に家で運動をする」という共通体験は、孤独を感じる状況が増えた中でも、誰かとつながっていること、つまり「ソーシャルコネクション」を感じることができます。
また、勉強や家事、メイクなどの本来は一人でやる作業を、クリエイターがやっている動画を見ながら一緒にやることで、モチベーションを上げたり、スクリーンを通じて人との繋がりを感じられるコンテンツである「With Me(一緒に何かをやる)」関連動画の平均視聴回数は、 3 月 15 日以降、世界中で 600% 増加しました。
日本でも、外出自粛期間中には「一緒に運動しよう」や「一緒に勉強しよう」など、自宅でできるさまざまなアクティビティをクリエイターが発信しました。また、料理や絵画などの趣味についてスキルを学べる動画も人気となりました。
理系動画で人気のクリエイター、はなおさんとでんがんさんによる、3時間の勉強動画です。
ゲーム実況クリエイターの赤髪のともさんが、リモート環境で有名シェフにカルボナーラの作り方を教わります。
水彩画講師のWatercolor by Shibasakiさんから、一緒に鉛筆でりんごを描きながら、絵の描き方を学べます。
ラーニング関連の動画
自宅で過ごす時間が増えたことで、自分の生活について見つめ直したり、以前からやってみたかったことを学んだり、新しい趣味に挑戦したりするきっかけを得た人も多かったかもしれません。これは、学びやスキルアップにつながる動画の視聴トレンドからも見てとることができます。
たとえば、家庭菜園への関心は、外出自粛期間に合わせて大きく高まりました。3 月 15 日から 5 月 19 日の間、日本では家庭菜園に関連した動画の平均視聴回数は、2020 年のそれまでの期間に比べて 200% 以上増加しています。
家庭菜園や農業、野菜やいちごの育て方などの動画を発信する宮崎大輔さんは、プランターで始められる再生栽培のやり方を解説しました。
また、在宅が増えたことで、より多くの人がキッチンに立つようになり、世界中で料理動画の人気が高まりました。日本では週末や時間のあるときにまとめて食事を用意しておく「作り置き」の動画が、3 月 15 日から 4 月 19 日の間、2020 年のそれまでの期間に比べて 200 % 以上増加しています。
例えば、さまざまな家庭料理のレシピを紹介するちびかばクッキングさんの動画では、冷凍保存ができ、お弁当や普段のおかずにもなる作り置き9品を学ぶことができます。
また、農林水産省が休校による牛乳の食品ロスや酪農家の方を支援するための乳製品消費を呼びかけた際には、はるあんさんをはじめ多くのクリエイターが、さまざまな牛乳消費レシピを紹介しました。