誤情報の対策と聞くと問題のある動画をより多く、より素早く削除することだけが解決策とご想像されるかもしれませんが、実際はより複雑です。もちろん動画の削除についても、YouTubeは開設当初からコミュニティガイドラインにもとづいて注力してきました。今では 四半期ごとに 1,000 万本近くの動画が削除されており、その多くは再生回数が 10 回に達する前に処理されています。(YouTube コミュニティ ガイドラインの適用について透明性レポート)この様な迅速な削除の対応は非常に重要ではありますが、決して十分ではありません。意外かもしれませんが、YouTube に残る動画をどのように扱うべきかを考えることこそが、最善のアプローチといえます。
YouTube は信頼できる情報源からの情報が多くのユーザーの目に触れる機会を増やし、有害な誤情報を含む動画の拡散を減らすよう努力しています。ニュースや情報を YouTube で検索すると、アクセスが多いコンテンツではなく、その質に基づいて最適化された検索結果が表示されます。YouTube がこの様なアプローチを取っている理由は、以下のとおりです。
削除する動画だけに注目してしまうと、実際に人々が目にする膨大な量の動画を見逃すことになります。有害なコンテンツは、YouTube に存在する数十億の動画のごく一部にすぎません(ポリシーに違反するコンテンツは、総視聴回数のわずか 0.16 〜 0.18% です)。YouTube のポリシーは、現実世界に深刻な危害を及ぼす可能性のある動画の削除に重点を置いています。例えば、昨年 2 月以降、誤った治療法やデマなどを含む新型コロナウイルス感染症に関連する動画を 100 万本以上削除しました。世界的なパンデミックにおいて誰もが自身や家族の安全を保てるよう、最も信頼できる情報にアクセスできるようにすることが重要です。
しかしながら、明らかに有害なコンテンツを特定するには、明確な事実の理解が必要です。新型コロナウイルス感染症に関しては、CDC(アメリカ疾病予防管理センター) や WHO(世界保健機関) などの保険機関の専門家の見解に基づいて、発展を続ける科学的見地を追い、継続的な理解を進めています。一方で、その他の多くのケースでは、何が誤情報かはそれほど明確ではありません。誤情報は本質的に絶えず変化しており、どの主張が正しいかを判断する主要な情報源がないことがほとんどです。事件などが発生すると、様々な対立する情報が錯綜します。不特定多数からの情報によって、誤った犯人や被害者が報じられ、悲惨な結果が生じることもあります。確実な情報を得ることができない場合、テクノロジー業界の企業だけが、どこからが誤情報かということに境界線を設定すべきでしょうか?私はそうではないと強く思っています。
その例として、2020 年の米国大統領選挙後の数日間は、このアプローチを徹底しました。公式の投票数の承認前は幅広い観点からの意見を削除せずに残しましたが、YouTube のシステムは最も信頼できるコンテンツをユーザーに届けました。選挙報道 1 週目に最も多く視聴されたチャンネルと動画は、CBS や USA Today といった信頼できる報道機関によるものでした。そして、12 月の初旬に各州の選挙結果が承認された後は、不正疑惑を報じる動画の削除に着手しました。以来、選挙関連ポリシーに違反する数千本の動画を削除しています。そのうち 77% は、視聴回数が 100 回に達する前に削除されています。
過度な削除へのアプローチは、言論の自由を萎縮させます。削除は鈍器であり、多用することで「物議を醸す主張は受け入れない」というメッセージを送ることになりかねません。政治的な目的でコンテンツの削除を求める動きが増加していますが、私はオープンな議論をすることができる社会こそが望ましいと考えています。誰かにとっての誤情報は、それが挑発的な意見、潜在的に不快な視点、事実確認に欠けている可能性のある情報などであっても、他の誰かの強い信念であることもあります。とはいえ、YouTube がオープンプラットフォームを支持するということは、人々を質の高い情報に結び付けるための大きな責任を意味します。そうした立場を踏まえ、YouTube は今後も「言論の自由」と「意見が届く範囲を指定できる自由」のバランスを取るために、製品への投資と革新を続けていきます。
「YouTube は経済的な利益のために際どいコンテンツを残している」と批判されることもありますが、そうしたコンテンツはあまり見られておらず、音楽やお笑いなどといった人気のコンテンツの視聴回数には全く及びません。また、この様な動画はユーザーと広告主の信頼を損ないます。YouTube として誤情報動画への対策に多大な時間と費用を費やしてきたことで今の YouTube が在り、クリエイターエコシステムが成り立っていると言えます。つまり、責任ある行動は双方にとって良い結果をもたらしています。
こうしたアプローチに賛同できず、動画の削除を「増やしたほうが良い」、「減らしたほうが良い」といった意見もあるでしょう。しかしながら、私はこれまでの初期投資の成果に勇気づけられています。YouTube の担当チームは常にシステムを改善し、YouTube の基礎となる誤情報に対処する基盤作りに励んでいます。この取り組みについては、今後より詳しくお知らせする予定です。今回のブログ記事によって、誤情報への対処に向けた YouTube の考えが少しでも明確に伝われば幸いです。