By Neal Mohan
デジタル動画について面白い試みを行っているある会社を訪れたのは、今から 15 年程前のことでした。ピザ屋の上の階にあった YouTube の小さなオフィスを見学させてもらったとき、私にはそのプラットフォームの明るい未来が見えたような気がしました。
私の長年の友人でメンターでもあるスーザン ウォジスキが Google と Alphabet のアドバイザーに転身(英語)したことを受けて、この数週間、15 年前に YouTube を初めて訪問したときのことを思い出していました。YouTube がスタートアップだった頃から、私は YouTube に将来性を見出していましたが、この度、YouTube を未来へと導いていく役割を担えることを非常に嬉しく思っています。
私は、Google とそれ以前の会社で、インターネット上のコンテンツ制作の資金となる広告製品の構築にキャリアの大半を費やしました。そして直近の YouTube チーフ プロダクト オフィサーとしては、クリエイターには成功する機会を、視聴者には心を動かす体験を提供するために、チーム一丸となり取り組んできました。
そして今 YouTube を担う立場になって今後を計画する上でも、クリエイターと視聴者にとって最も重要なことに全力を注いでいこうという思いを強くしています。このブログでは、YouTube の核となる優先事項を皆様にお伝えしたいと思います。その優先事項とは、クリエイターの成功をサポートすること、YouTube の未来を築くこと、YouTube コミュニティを保護することです。
クリエイターの成功をサポート
クリエイターとアーティストは YouTube の中核であり、今後も最も優先されるべき存在であることに変わりありません。現在の困難な経済情勢においても、YouTube は、クリエイターのビジネスを成長させる機会を提供し続けています。Oxford Economics の調査によると、2021 年に、日本、インド、インドネシア、英国、オーストラリア、カナダ、韓国、ドイツ、トルコ、ブラジル、フランス、米国で、合計 200 万以上の職が YouTube のクリエイティブ エコシステムにより創出されました。
YouTube の 1 か月あたりの視聴者数は数十億人、1 日あたりの視聴時間は数十億時間にも上り、かつてないほど多くの人々が、YouTube でコンテンツを作成しています。例えば、Beleaf in Fatherhood というチャンネルでは、家族の日々の生活や、めまぐるしく変化する米国で子育てをすることの複雑さを、黒人の父親の視点から垣間見ることができます。また、Cafe Maddy は、昨年歯科医から専業のフードクリエイターに転身して発信しています。
今年 YouTube は、クリエイターの成功をサポートするため、以下の取り組みを行います。
クリエイターが収益を得る方法を提供する
YouTube は、クリエイターが視聴者と深い関係性を築けるよう支援するとともに、クリエイターが好きなことで生計を立てるために利用できるさまざまなツールを提供しています。昨年 YouTube で初めて収益を上げたチャンネルは数十万に上ります。広告以外にも、サブスクリプション サービスやショッピング機能への投資を拡大し、有料デジタル アイテムを拡充しつづけることで、多くの機会をクリエイターに提供しています。クリエイターにこうした選択肢を提供することで、クリエイターの収益が増えています。例えば、韓国のクリエイターの 진용진(Jin Yong-jin)は 7 か月前にチャンネル メンバーシップを開始したばかりですが、今では 3 万人以上のメンバーを獲得しています。また、YouTube で有料のチャンネル メンバーシップに登録している視聴者の数は 2022 年 12 月時点で 600 万人を超えており、前年比で 20% 以上増加しています。
クリエイターの意見に耳を傾ける
今年は、さらに多くのクリエイターに直接お会いして、YouTube がクリエイターをサポートする方法について意見を伺いたいと考えています。サービスの開発にあたっては、クリエイターから寄せられるフィードバックが重要です。例えば、新しい視聴者層へのリーチに有効な多言語音声トラックの機能も、クリエイターからのフィードバックを元に開発されました。この機能をより多くのクリエイターにご利用いただけるようテスト対象範囲を拡大するとともに、ライブ配信や YouTube ショートでもテストを実施しています。昨年 12 月にゲームクリエイターの Ludwig が主催したライブ配信イベントでは、英語、フランス語、スペイン語の音声トラックが用意され、その視聴者数は、Ludwig の YouTube チャンネルでの過去最高記録を上回りました。
また、複数のクリエイターから、聴覚障がいを持つ方向けのユーザー補助機能を拡充することの重要性についてもご意見をいただきました。現在では、長年続けてきた機械学習への投資が実り、自動字幕起こし機能を提供できる言語が増えています。また、視聴者が字幕を 16 か国語に翻訳できるモバイル向けの機械翻訳字幕機能も提供しています。YouTube が字幕を付けた動画の数は 60 億本以上、字幕を有効にして動画を視聴するユーザーの数は 1 日あたり 10 億人以上にも上ります。(*1)
YouTube は、クリエイターの声をよりしっかりと受け止めるために、サポート体制を強化しています。昨年、これまでの 2 倍以上のクリエイターやパートナーが、チャットやメールを使用してリアルタイムのサポートを受けられるようにしました。こうしたクリエイターの半数以上は、米国外に居住しています。また、YouTubeのチャンネル運営戦略について、パートナーマネージャーから助言を受けることができるクリエイターの数も大幅に増やしました。
クリエイター コミュニティの成長を促す
YouTube は昨年、fuslie、Sykkuno、LilyPichu、Swagg、Myth、NexxuzWorld といった人気ゲームクリエイターによる YouTube での独占配信を実現しました。彼らの活躍が大きな弾みとなり、2022 年のゲーム関連の視聴回数は 2 兆回を超えました。また、チャンネル メンバーシップ ギフトがクリエイターとコミュニティをより結び付けていることからも、今年はこの機能をモバイルにも拡大する予定です。ゲーム配信では、視聴者がクリップしたくなるような名場面や印象的なリアクションが多く生まれます。今後、視聴者がゲーム実況動画のクリップをショート動画にリミックスできるようにするとともに、ゲーム コンテンツの名場面を再構成してショート動画にする機能を追加する予定です。ゲームに関する 2023 年のビジョンについて詳しくは、ゲーム担当グローバル責任者と CouRage とのインタビューをご覧ください。
YouTube の未来を築く
YouTube は、今後も視聴者やクリエイターにとってホームとなる存在であり続けるための機能や体験の開発に投資していきます。動画配信サービスの視聴と、コネクテッド テレビへの投資増や、クリエイター向けの機能の開発はその一例です。特に重視している取り組みを以下にご紹介します。
視聴者向け:最高の動画配信サービスとコネクテッド テレビの体験を提供
YouTube は設立当初より、視聴者とのコミュニティを育んできました。現在、視聴者がクリエイターや他の視聴者と交流を楽しむための機能をさらに充実させようとしています。そのためにまず、ユーザーがコンテンツを最もよく視聴する場所で、視聴者のニーズに応えようとしています。それはつまり、大半の家庭で一番大きな画面であるテレビを指します。昨年成長が最も著しかった YouTube の視聴方法はテレビで、この傾向は全世界に共通しています。
今後は、お気に入りのクリエイター、視聴したい動画配信サービス、便利な機能など、YouTube の最高の視聴体験をリビング ルーム/テレビでも楽しめるようにします。最近では、モバイル向けの YouTube ショートをテレビでも楽しめるように適応しました。さらに、米国では、Primetime チャンネル(英語)をリリースしました。これは、お気に入りの動画配信サービスのコンテンツを YouTube アプリで視聴できる新サービスです。(現段階では、日本への導入は未定です。)
また、昨年 12 月には、NFL サンデー チケットが YouTube TV と Primetime チャンネルに登場することを告知しました。NFL の協力のもと提供されるこのサービスにより、YouTube がアメリカンフットボール観戦の最高のメディアになることを期待しています。YouTube TV や Primetime チャンネル 契約者の YouTube アプリには、YouTube TV の機能(注目プレイを視聴する機能など)が追加で表示されます。またクリエイターは、試合情報や解説を通じてスポーツファンと交流できるようになります。サンデー チケットには、コメント、チャット、アンケートなど、ファン同士で交流する方法も用意されています。また YouTube TV では、複数の試合を一度に視聴できる新機能が年内にリリースされる予定です。(現段階では、日本では視聴できません。)
クリエイター向け:フォーマットの枠を超えた創造性の発揮
昨今のクリエイターは、既存のスタイルに捉われない表現に挑み続けています。YouTube は、あらゆるプラットフォームの中でも、創造性を最大限発揮できる場を提供しています。継続的に機能の拡充を進めており、フォーマットの枠を超えて制作できる機能を充実させることで、クリエイターに新たな自己表現と視聴者獲得のための手段を提供しています。YouTube ショートはリーチの拡大に貢献しています。ショート動画は現在 1 日あたり平均 500 億回以上視聴され (*2)、2 年目となる昨年は、ショート動画を毎日アップロードするチャンネルの数が 80% 以上増加しました。例えば、体型について安心して語り合える場所としてなど、YouTube ショートを使ってコミュニティが構築されているのをみると、とても嬉しくなります。
クリエイターが関心を示している分野のひとつが、ポッドキャストです。Edison の調査によると、 YouTube は現在米国で、ポッドキャストを聴くための 2 番目に人気のあるプラットフォームとなっています。(*3) YouTube Studio の新機能により、ポッドキャストをより簡単に公開できるようになります。また、音声中心のポッドキャストと動画中心のポッドキャストの両方を YouTube Music で配信開始します。何百万人の視聴者を抱える米国を皮切りに、今後対象地域をさらに拡大していく予定です。さらに、年内には RSS インテグレーションが予定されています。これにより、ポッドキャストのクリエイターが番組を YouTube にアップロードする方法が増え、ユーザーにとっては視聴方法の選択肢が広がります。
YouTube のサービス開発計画の策定においては、数年先の計画だけを立てているわけではありません。今がまさに重要な節目の時であるという認識から、YouTube はデジタル動画制作の未来も見据えています。クリエイターは、「プラットフォームでは動画を投稿できさえすればいい」とは考えておらず、ショート動画、ライブ配信、ポッドキャストなどの枠を超えて目標を実現するための高度なツールを必要としています。今年 YouTube は、クリエイターがショート動画や長尺動画を横に並べて、ショート動画を録画できる制作ツールをリリースする予定です。これにより、トレンド動画にオリジナル要素を加えた動画を作成したり、トレンド動画へのリアクション動画を簡単に作成したりできるようになります。
また、AI の力により、動画作成の既成概念が覆され、不可能と思われていたことが可能になっていこうとしています。バーチャルに服の着せ替えをしたり、幻想的な撮影設定を作成したりするなど、AIの生成機能は、表現の幅を広げ、動画の制作クオリティを高めていくでしょう。YouTube は、慎重に設計された安全指針にしたがって、時間をかけながらこうした機能の開発に取り組んでいます。今後、、このテクノロジーを責任をもって提供するための保護施策と共に、クリエイター向けのツールがリリースされる予定です。どうぞご期待ください。
YouTube コミュニティの保護
YouTube がイノベーションを推進するうえで最も重要なのは、コミュニティを守る責任を果たすことです。クリエイターと視聴者が YouTube を安全に利用できるようにするため、チーム、テクノロジー、システムへの投資に注力しています。
こうした取り組みはどれも極めて重要ですが、子を持つ親の一人として、私は YouTube 上で子どもを保護するための取り組みを特に重視しています。YouTube は、YouTube Kids と保護者向け管理機能を通して、ファミリー向けの動画を簡単に見つけられる機能を拡充する取り組みを継続的に行っています。YouTube Kids は、13 歳以下の子どもの好奇心に応えつつ、安全な動画視聴環境を提供するために開発されたアプリです。このアプリでは、保護者が家族の視聴体験をカスタマイズすることができます。また、動画投稿時のデフォルト設定を非公開にするといった、18 歳未満の子ども向けの保護機能も開発しました。しかし、子どもが安全に利用できるだけでは不十分です。YouTube は、子どもが視聴する動画が有意義な内容のものであってほしいとも考えています。完璧なシステムはありませんが、YouTube は多大なリソースを投入し、何層もの保護の仕組みの開発と、子どもの学びと成長を促進する高品質なコンテンツの優先表示に取り組んできました。
また、政策立案者との対話を継続的に行い、クリエイターとアーティストに影響を与える政策について YouTube 側の意見を伝えるように努めています。現在、世界各国の政府により、デジタル環境を形作る法律の改正や新法案の提出が行われています。YouTube は、政府関係者と足並みを揃えつつ、安全であると同時に多様な意見が許容されるオンライン環境の形成に取り組んでいます。米国通信品位法第 230 条に関する議論に参加しているのもそのためです。この条項は、クリエイターによる創作活動と、YouTube による有害なコンテンツの削除の根拠となっているからです。また、ヨーロッパで議論されている、政治的なスピーチが制限される可能性のある改正案(英語)や、ユーザーの興味や関心ではなく、政府の要求に基づいたコンテンツ表示を YouTube に強制する可能性のあるカナダの Bill C-11 に関する議論にも参加しています。
これから
私たちの産業は、今重要な局面を迎えています。目の前には、困難な経済情勢と、先行き不透明な地政学的状況が立ちはだかっています。AI により動画制作に新たな可能性が提示されていますが、これらの可能性には責任が伴います。クリエイター、視聴者、広告主は、これまでにないほど多くの選択肢から、時間を費やす対象を選べるようになっています。YouTube は、さまざまな制作フォーマットを提供しつつ、現実の危害からプラットフォームを保護するポリシーにも注力する必要があります。
私は何年も前に、ピザ屋の上の階にあるオフィスで、YouTube の強みを目の当たりにしました。YouTube の力の源は、コミュニティとしての一体感です。その一体感により、個々の構成要素を足し合わせた以上の力が生まれているのです。YouTube の最大の魅力は、クリエイター、アーティスト、広告主、視聴者が一丸となって素晴らしい理想を実現できるところにあります。
そして、このことこそ、私を含めた YouTube の全社員が、日々全力で業務に取り組むための原動力となっているのです。ストーリーの共有、新しいスキルの習得、情報へのアクセス、コミュニティの構築が可能な場として、YouTube の魅力をさらに高めるべく、今後も全力を尽くしてまいります。
YouTube のさらなる進化にご期待ください。
*1: 2022 年 12 月現在
*2: 2022 年 12 月現在
*3: Edison Research、Edison Podcast Consumer Tracking Report、米国、2022 年第 1 四半期